【社労士解説】再雇用でモチベーションが下がる理由と60歳からの働き方

 【社労士解説】再雇用でモチベーションが下がる理由と60歳からの働き方 定年前後に読むと得するコラム

いつもと同じ時間に起きて、
いつもと同じ満員電車に揺られて、
昨日と同じデスクに座る。
目の前にあるのは、昨日の続きの仕事。
ここまでは、何も変わらない日常です。

でも、「60歳の誕生日」
その日を境に、
給料がいきなり半分になる。
仕事の内容はほとんど同じなのに、です。

かつての部下や年下の社員が「自分の上司」になる。
日本の企業ではよくある光景ですが、私たちがなんとなく受け入れてきたこの現実、これって本当に今の時代に合っているんでしょうか?

今回は、将来直面するかもしれない、あるいは今まさに直面している「再雇用制度」について、データから徹底的に解剖していきます。

ぶっちゃけどうなの?再雇用の『現状』

まずは、皆さんが直面している、あるいはこれから直面する『現状』について、リアルなデータを見ながらお話ししましょう。

2021年の4月に『高年齢者雇用安定法』という法律が変わり、会社は『希望する社員を65歳まで雇わなければならない』という義務を負うことになりました。これを受けて、現在、従業員21人〜300人規模の中小企業では、なんと『99.9%』もの会社が、65歳までの雇用を確保するための何らかの対策を行っています
一番多いのは『定年後も引き続き雇う(継続雇用制度)』という方法で、これが全体の64.2%を占めています。

ちなみに、70歳まで働けるようにしている会社の割合は、大企業が29.5%なのに対し、中小企業は35.2%と、実は中小企業の方がシニアの活用が進んでいるんです。これは、中小企業の方が社長と社員の距離が近く、一人ひとりの体調や意欲に合わせた柔軟な働き方がしやすいからなんですね。

しかし!ここで大きな『壁』が立ちはだかります。
それが、再雇用になった途端に襲いかかる『モチベーション(意欲)の低下』です。

東京都のデータによると、定年後に再雇用された人のうち、約4分の3もの会社で『お給料が下がってしまう』という現実があります。最も多いのが、定年直前のお給料の『7割〜8割程度』に減ってしまうケースです。

実際の職場でも、一律の給与体系にされてしまったり、仕事の質や量が人によって違うのに評価されなかったり、『若手の補助作業』をさせられたりして、『働きがい』を見失ってしまうシニア社員が少なくないのが、今の日本の大きな現状なのです。

「もう働きたくない」の裏に隠されたミスマッチ

60歳で働ける年齢なのに完全リタイアする理由って一体何なのでしょうか?
60歳に退職できる人は「たっぷり貯金があって、悠々自適にリタイア生活を満喫している」と想像するかもしれません。パーソル総合研究所が、現在働いていない60代に向けた調査があります。

働かない理由の圧倒的1位は、ストレートに「もう働きたくない」。60代前半の50%がこれを挙げています。次いで「健康上の理由」、「お金に不自由していない」と続きます。

しかし、ランキングの4位以降を見ると、全く違う風景が広がっているんです。

  • やりたい仕事が見つからない
  • 就業時間や場所の条件が合わない
  • 自分のキャリアやスキルが活かせない

実は、こうした「労働条件や仕事内容のミスマッチ」に関する理由をすべて合計すると、60代前半でなんと約40%にも上るんです。

つまり、本当は条件さえ合えば働きたいのに、労働市場に失望して退出している。「どうせ自分のやりたい仕事がないから、もう働きたくない」という諦めが極めて高い確率で含まれているんです。

シニアが国や会社に望むこと(不満から見えてくる本音)

では具体的にはどんな働き方を望んでいるのでしょうか。今の不満からみえてきます。

【第1位】仕事内容は同じなのに…「激減する給与」への戸惑い

堂々の第1位。再雇用で働く誰もが口を揃えて訴える最大の不満です。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した詳細なデータを見ると、この現実は数字として表れています。61歳時点での賃金水準は、60歳直前の賃金を100とした場合、平均的な水準の人で「78.7%」にまで大きく低下しています。さらに厳しいケースでは、最も低い水準の人で平均「70.8%」、つまり定年を境に約3割も給与が強制的にカットされているのです。

「これからは責任が軽くなるから」「補助的な簡単な業務に回ってもらうから」という理由であれば納得できるかもしれません。しかし現実は、「任される仕事の量も質も、定年前と全く変わらない」というケースが多々あります。
ただ「60歳という年齢の壁を越えたから」というだけの理由で、理不尽に引かれてしまう。この点において、再雇用で働く人が強く改善を求めていることがデータからわかります。

【第2位】「自分の役割って何?」失われるやりがいと承認欲求

私たちが仕事を通じて得る喜びとは、決して目に見える給与の額だけではありません。「〇〇さんのおかげで助かったよ」「ありがとう」という他者からの承認と、誰かの役に立っているという「やりがい」こそが、人を突き動かす原動力です。

内閣府の調査を見ても、「社会とのつながりを維持したい」「社会の役に立ちたい」という純粋な動機で働き続けるシニアが多いことが示されていますが、実際の職場環境は、そのささやかな願いすら叶えてくれないことが多いのです。「自分はここに存在する意味がある」という承認欲求をみなさんは求めています。

【第3位】元部下が上司になる気まずさ

かつて管理職として多くの部下を率い、バリバリと組織を動かしていた人ほど強く感じる、人間関係の強烈なストレスです。
定年を境に役職定年となり、かつて自分が手取り足取り指導してきた部下や、年下の社員が「直属の上司」になるという逆転現象が起こります。

頭では「組織のルールだから仕方ない」と冷静に理解していても、感情がそれに追いつきません。上司となった元部下から指示されるたびに、チクッとしたプライドの痛みを覚えるものです。一方で、上司となった元部下の方もやりづらさを感じ、お互いに不自然な敬語を使い合い、気を使い合うという息苦しい空間が生まれます。

【第4位】活かせない経験とスキル:業務内容のミスマッチ

パーソル総合研究所の調査によると、60代前半が就業を継続しない理由として「やりたい仕事が見つからない」「キャリアやスキルが活かせない」といった、労働条件・業務内容のミスマッチを挙げる人が約4割という高い割合に上ります。

就業意欲自体はあるものの、「これまでの経験やスキルを活かせる適した仕事がない」ために、やむを得ず働くことを諦めている割合が高いのです。

【第5位】頑張っても報われない?見えにくい評価制度

「自分の努力が正当に評価され、それが報酬や待遇に反映されること」は年齢を問わず非常に重要です。しかし、再雇用者に対しては、この「評価制度」が機能していない、あるいは最初から存在すらしていない企業が数多くあります。

様々な調査において、60代前半層に対して新たな評価制度を導入する予定がないと答える企業が約4割に上ります。「どうせいくら頑張っても給料は1円も変わらないし、評価もされない」。そう悟った瞬間、どんなに真面目な人であっても、モチベーションを高く保つのは難しいものです。

じゃあ、60歳以降も働くメリットって何?

最後に、ぜひ知っておいていただきたい調査データがあります。
もし、この理不尽な再雇用制度に嫌気がさして「もう働くのはやめよう」と完全に仕事から離れてしまった場合、その先の人生にはどんな影響があるのでしょうか。

厚生労働省の「中高年者縦断調査」という、50代の方を80代まで長期間追い続けたデータがあります。仕事をやめると起こる変化は以下の通りです。

  • 通勤という日々の運動がなくなる
  • 職場でのちょっとした会話が減り、人との接点が少なくなる
  • 「〇〇部長」「〇〇担当」といった社会の中での役割が薄れていく

つまり、「働かない」という選択は、単にお金(収入)が減るという問題だけではなく、こうした変化が積み重なることで、身体面や認知面を含めた「生活全体」にじわじわと影響を及ぼしていく可能性がある、ということなんですね。

「働く」ということは、お金を得る手段であると同時に、社会とつながり続けるための大切な要素でもあるのです。

【比較表】60歳から働くスタイルとメリット・デメリット

とはいえ、現実には再雇用にはさまざまな壁があるのも事実です。60歳からの様々なスタイルと、それぞれのメリット・リスクを比較表に整理しました。

スタイル メリット リスク・注意点
退職金で繋ぐ 自由な時間が手に入る。
世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄現在高の中央値は全世帯の約1.4倍と、経済的に余裕がある層が存在する(内閣府)。
70代後半で資金枯渇の恐れ。
高齢者の約8割以上が持ち家に居住するなど資産に偏りも。長寿化による医療・介護への支出増に備えた資金計画が必要。
年金繰り上げ すぐ現金が入る安心感。
早期リタイアなどで収入が途絶えても、手元に資金が入る。
受給額が一生大幅にカットされる。
制度を正しく理解した上での慎重な判断が求められる。
今の会社で
再雇用
慣れた環境と社会保険の継続。
60代前半層の44.2%が「定年前とまったく同じ仕事」に就いている(JILPT)。
収入激減とプライドの葛藤。
61歳時点の平均賃金は60歳直前の78.7%まで下落。企業の20%が「元管理職の扱いが難しい」とし、やりがいの喪失に注意。
新分野へ転職 新たな生きがいを得られる。
55歳以上の中途採用実績がある企業は70.9%に上る(JILPT)。
賃金下落と体力的な厳しさ。
94.8%の企業が採用時に「経験や専門的な知識・スキルを問う」。未経験分野への挑戦は条件のミスマッチが起きやすい。
完全リタイア ストレスフリーな生活。
働いていない60代前半の50.0%が「もう働きたくない」を理由に挙げている(パーソル総合研究所)。
インフレと孤独のリスク。
65歳以上の一人暮らしは増加傾向。5割弱が「孤立」を身近に感じており、社会とのつながりの喪失に注意。
生涯現役
(自営等)
収入の維持と年金繰り下げが可能。
収入のある60歳以上の約3割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答(内閣府)。
健康を損なうと収入がゼロに。
シニアが働かない理由の上位には「自身の健康上の理由」が含まれており、健康維持の取り組みが不可欠。
地域活動 社会貢献による生きがいの創出。
国も地域社会における課題解決に向けた担い手確保や社会参加活動を促進している。
経済的余裕があることが前提。
生活費を稼ぐ必要がないだけの資金的な裏付けと、価値観の整理が求められる。

最後にお伝えしたいのは、60歳以降の再雇用制度は、国や会社がしっかり整えていくことが非常に重要だという点です。

なぜなら、今、再雇用で働いている方々が感じている不満は、決してその世代だけの問題ではないからです。現役世代は、その姿をしっかり見ています。そして、「いずれ自分もこうなるのか」と、自分の将来に重ねています。

もしそこに、やりがいや納得感のある働き方が見えれば、「自分もこういう形で働き続けたい」と思えるでしょう。一方で、理不尽さや不満ばかりが見えてしまえば、将来に対する不安は、より大きくなっていきます。

つまり、再雇用のあり方は、これから働く私たち自身の未来そのものに直結している問題なのです。

 

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